2015/9/28 15:00

『日本のいちばん長い日』原田眞人監督が“アカデミー賞”にかける想い

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昭和史研究の第一人者・半藤一利の傑作ノンフィクションを『クライマーズ・ハイ』、『わが母の記』の原田眞人監督がメガホンを取った作品『日本のいちばん長い日』。

太平洋戦争終戦の舞台裏では何が行われていたのか? 日本の未来を信じ、今日の平和の礎を築くため、身を挺し闘った人々の物語に挑みます。ベテランから、躍進目覚ましい若手俳優まで、今の日本映画界を代表するキャストの豪華競演が実現しました。すべての日本人に伝えたい、戦後70年の壮大な記念碑となる作品となっています。

今回『Variety Japan』では原田監督にインタビューを敢行。映画について、「アカデミー外国映画賞を狙いたい」という海外マーケットへの想いなど、色々とお話を伺ってきました。

―映画を拝見して、終戦の裏側にはこんな事があったのだ、と知らなかった自分が恥ずかしくなりました。まず、今回この映画を作られたきっかけを伺えますでしょうか。

原田監督:岡本喜八版が封切られた時に、僕は18歳だったのですが、それで「宮城事件」というものを知り、すごい事があったのだなと驚きました。ただ、軍人の描き方が、髪を伸ばしていたり、目をむいて大げさな演技をしたりというのが耐えられなくて。昭和天皇の姿も、ロングショットか背中か、という感じでちゃんと出てこないし。

一番素朴な疑問は8月14日から15日にかけての時間の中で、東条英機はどこにいたのだろう、という。そして、半藤先生の原作を読んで、昭和天皇をきちんと描ける時代が来たら、誰かが映画にしなくてはいけないなと思っていました。

―そして実現したわけですね。

原田監督:その後、しばらく時間は空いてしまったのですが、興味はあったので資料を読んだり調べ物はずっと続けていて。そんな時にアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(2006年日本公開)が日本で公開されて、僕も初日に「銀座シネパトス」に観に行って。「右翼が乱入してくるかもしれない」という噂もあったし、皆緊張した顔で観たわけですよ。内容については「宮城事件」の描き方も、外国の監督にしてはよく調べているなと。だけど、イッセー尾形のやった昭和天皇が、口をモゴモゴさせていたり、昭和天皇の特徴をことさら強調していて、品位が無かったんですよね。その時点で、これは自分がやりたい、撮らなくてはいけない、という気持ちになりましたよね。

そして、あそこまでやって何も問題が起らないのだったら、自分に出来るだろうという気持ちもありました。昭和天皇を品格のある孤高のリーダーとして描けるだろうと。

―なるほど。昭和天皇をきちんと描きたいという気持ちがあったのですね。

原田監督:21世紀になって、ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』や、ハーバート・ビックスの『昭和天皇』という本が出て来て、特に『昭和天皇』は酷かったですからね。長い時間をかけて調べて書いているというのは分かったけど、学者特有の勘違いがあるというか。それは、権力の座にいる者を描く時に、権力の座にいる事を疑似体験した事が無い人は分からないという事です。例えば、僕は映画監督だから撮影の場では最高権力者ですよね。ところが、宣伝の立場になった時にポスターは宣伝部が勝手に作ってしまって、それを変えるにはたくさんの時間がかかると。『駆け込み女と駆け出し男』なんてのも、あのポスター全然気に入っていなかったですから。でも色々な状況で諦めざるを得ない。

そんな時、自分の気持ちはそのポスターには反対なんだけど、そこは諦めて、少しでも良い所を探そうとする。昭和天皇も一緒でね、開戦も反対だったし、中国侵略も反対だったけれど、彼の想いは通らなかった。自分はそういうつもりじゃなかったのだけど、太平洋戦争がはじまってしまった、毒を持って毒を制す為に東条英機が首相になって。それが逆効果で、どんどん戦争は酷くなっていった。でも、そんな状況で「自分は戦争は反対でした」なんて言えないですよね。これは権力のあるポジションに就いた事のある人なら誰でも分かると思います。

―リーダーであるからこそ、とらなければいけない態度と。

原田監督:昭和天皇も、自分は好戦的では無いのだけど、より良い状態になる為に色々と言うわけですよ。それはハーバート・ビックスは「こういう好戦的な事を言っている」等と、誤解して書いている。「戦争中にただ一人昭和天皇が自由だった」と書いている。全然自由じゃないんですよ。僕も小さいながら権力の場に立っているから、力で蹂躙されて、その中で妥協点を見つける大変さ、葛藤も分かっている。

昭和天皇の「耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ」という言葉も、15年の間彼が耐えてきた想いが込められているのであり、そこを僕は映画で描きたかった。

―本媒体が、アメリカ等、全世界で配信されている「Variety」の日本版という事で、今後の海外配給についてお考えを伺えますでしょうか。

原田眞人:海外での公開はぜひやりたいですよね。本当はベネチア国際映画祭に持って行きたいのですが、あそこはワールドプレミアしかやらないのですよね。なので、今狙っているのは、トロント国際映画祭での上映で。その後は、サンセバスチャン映画祭のコンペに出して、出来ればニューヨーク映画祭にも出したいなと。ニューヨーク映画祭は毎年旬な映画を30本選んで上映するので、そこで観せてアメリカで広げて、配給を見つけて上映したいという気持ちはあります。

もちろんアカデミー賞にもチャレンジしたいのだけど、外国映画賞にまずノミネートされないといけないですからね。残念ながら僕の映画はいつも疎外されていて。日本のプロデューサー協会が、特別審査員を出して、作品を選ぶのですが、特別審査員というのは批評家中心だから、批評家好みの作品ばかりになってしまうわけですよ。だけど、映画の作り手の気持ちも分かっている方が選んでくれないと、自分の関係する作品が出品されていないプロデューサーが集まれば良いと僕は思っているんです。批評家だと僕の作品だけは絶対に選ばない、なんて言う人もいたりして。

―そんな事があるのですね、本来の意義とは外れている様に感じてしまいます。

原田監督:米国の配給会社さえ見つかればゴールデングローブ賞の外国語映画部門には挑戦出来るんです。そして、米国の配給会社を見つける為にはトロント映画祭に出品するのが一つの道であるわけです。

―なるほど。国によっても異なる反応が得られそうで、それもとても興味深いですよね。

原田監督:また、日本でも英語字幕をつけて上映したいと働きかけていました。70年前の物語を描いているので言葉の言い回しも独特で、若い世代の人にとっては日本人でさえ、英語字幕の方が分かりやすいかもしれない、そんな事も考えたり。

―畑中少佐役の松坂桃李さんのキャスティングもそうですが、若い世代を意識した作品作りであると感じました。そして、若い世代が観るべき映画だと。

原田監督:若い世代は戦争を学ぶ事を放棄している部分がある。最近の日本ではきな臭い発言をする政治家が増えてきていますが、過去に軍を捨てて国を残すという判断をした人がいる以上、もう軍を持っていけないんだとという議論を若い人にして欲しい。政治の事分からない、戦争の事分からないというのでは無く、この映画を観て考えて欲しいですね。

子供の時からアニメばかり観て、映画も『ビリギャル』だ『ラブライブ!』って、もちろんそういった作品を観るのは構わないのだけど、その前に観るべき作品もあるのだと。「理解出来なかった映画=つまらない」というのは違うと思いますしね。僕がこの年齢になっても、映画を観て分からなかったら理解力が足りなかった、と反省する事ばかりなのだけど、若い世代はなぜ「分からないから映画が悪いんだ」と思ってしまうのだろう。

―分からなかったら、考える、調べる、そしてまた何度でも映画を観る、といった事が必要なのかもしれませんね。特にこの作品に関しては。

原田監督:日本では今後選挙権も18歳に引き下がるわけですから、教育に携わる者、大人は、子供達に首に縄をつけてでも観に行かせて欲しいという気持ちですね。

―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。


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